- 2006年10月10日 18:43
- 映画
先週末、映画『カポーティ』を見てきた。
本作品は、トルーマン・カポーティの伝記的な内容で、
特に『冷血』の執筆過程をストーリーの中心に据えている。
『冷血』は、1950年代のアメリカで起こった一家殺人事件について書かれた小説で
20世紀を代表するノンフィクションの金字塔だ。
事件が起きてから、刑が施行されるまで、劇中描かれるのはおよそ5年と短い。
だが作家カポーティの最大のチャレンジと興奮と苦悩とが
入り混じって不思議な方向に向かっていく
この時期に焦点を絞った脚本がすばらしい。
この映画の良さは、あえて半生を描くようなことをしなかった潔さにあると言える。
そして、フィリップ・シーモア・ホフマンの演技が僥倖である。
『ブギーナイツ』では油のノッたこってりゲイを演じていたが、
こちらでは完全に洗練されたゲイ(いわゆるNYゲイ)に見事になりきっている。
F.S.ホフマンの相変わらず繊細な演技は、
カポーティの興味の対象が「作品(小説)をつくる」ということから、
次第に「犯人そのもの」に移り変わっていく、
心象の微妙な揺れや、確実な変化をきっちり表現している。
このように"リアルに存在する何か"を題材にして、
作品をつくっていく過程においては、
「作品となる対象」と「作品そのもの」に対しての
距離感がうまくつかめなくなることがある。
だからこの映画は、
天才(カポーティ)の特殊な題材(殺人事件)をテーマにしながら、
その心境変化の感覚は我々(凡人)の日常にも共有できる、というところに
面白みがあるように思った。
その複雑な心境変化のもたらすものは、
衝撃的でありながら、どこか身近であり、
きっと鑑賞後の僕たちの心からすぐに出てはいかないだろう。
ちなみにF.S.ホフマンは本作で2006年のアカデミー主演男優賞を獲得している。
そんなわけで、特に爆発もテロも恋愛も戦争も起こらないのだが、
この秋の夜長の口火を切るべく、恵比寿で静かに鑑賞するのに、
これ以上相応しい映画はない。
オススメ。